コンタクトレンズの流通・取引慣行に関する
実態調査報告書

平成9年6月
公正取引委員会事務総局

        目    次
第1調査の概要
第2コンタクトレンズ業界の概要
 1コンタクトレンズの定義
 2コンタクトレンズの種類
 3出荷額・生産額
 4輸出入の規模
 5小売価格の状況
 6コンタクトレンズメーカーの状況
 7小売業者の状況
 8コンタクトレンズの製造,販売についての規制等
  (1)製造又は輸入にかかる承認
  (2)販売における特殊性
  (3)一般消費者によるコンタクトレンズの購入の手順
第3流通経路及び取引形態
 1コンタクトレンズの流通経路
 2取引形態
  (1)取引の態様
  (2)「委託販売」
  (3)買取
第4取引価格等
 1卸売価格
  (1)卸売価格の水準
  (2)卸売価格の決定
 2小売販売価格
  (1)メーカー希望小売価格
  (2)実際の小売販売価格
  (3)メーカー等からの小売販売価格に関する要請
第5販売促進策及びその他の取引条件等
 1販売促進策
  (1)広告チラシの配布
  (2)その他の販売促進策
  (3)メーカーによる眼科医に対する販売促進策
 2 その他の取引条件
  (1)眼科医の特定
  (2)一般消費者以外の販売先への販売
 3新規出店について
第6 コンタクトレンズの製造・販売をめぐる規制及び眼科医による処方
 1規制に対する認識
  (1)製造・輸入にかかる承認
  (2)ソフトレンズの消毒方法にかかる一部変更承認
 2 コンタクトレンズ販売と眼科医による処方
  (1)医師による処方の必要性
  (2)小売業者と処方担当医との関係
  (3)処方に要する費用
第7内外価格差の発生状況とその原因
 1内外価格差の状況
 2並行輸入
 3 PB商品
第8 まとめ及び競争政策上の評価
 1 コンタクトレンズ業界の現状
  (1)コンタクトレンズ市場の動向
  (2)小売業者の状況
  (3)メーカーをめぐる状況
  (4)取引の状況
  (5)コンタクトレンズ販売と眼科医
 2競争政策上の評価
  (1)メーカーによる小売業者に対する関与
  (2)眼科医によるコンタクトレンズ販売ヘの関与
  (3)メーカー希望小売価格の在り方
  (4)薬事法上の承認
第9今後の対応 
第1 調査の概要
 はじめに
 公正取引委員会では,従来から,各分野。各業種における流通。取引慣行,規制制度等の問題について,競争政策の観点から実態調査を実施してきているところである。
 今回,内外から複雑な取引慣行や内外価格差等について指摘されている医療用具について,特に,心臓ぺースメーカ,経皮的冠動脈形成術用カテーテル(PTCAカテーテル),核磁気共鳴画像診断装置(MRI)及びコンタクトレンズを対象として,流通取引慣行,規制制度等を中心に'競争政策の観点から実態調査を行った。
 本調査報告は,心臓ぺースメーカ,PTCAカテーテル及びMRIの3品目が医療機関向けに販売されるものであるのに対し,コンタクトレンズは一般消費者に直接販売されることなどから,その販売方法,関連する取引慣行,問題点等が異なるため,別途これについてのみ取りまとめたものである。
1調査対象
  視力補正用コンタクトレンズを対象品目とし,主にコンタクトレンズメーカー(以下「メーカー」という。)と小売業者との間の取引実態及び小売業者の消費者に対する販売時の行動等を調査対象とした。
2調査の視点
  調査対象品目の選定に当たっては,コンタクトレンズが近年急速な伸びを示し,消費者に直接販売される医療用具であるにもかかわらず,その取引の実態が明らかになっていないこと,また,大型量販店での値引販売がみられる一方,地方では高価格が指摘されていること等から,これを選定した。こうした点を踏まえ,今回の調査を行うに当たっては,主に以下の三つの視点を中心に流通実態等を明らかにすることとした。
  @ 小売業者の販売価格等の自主的決定が,メーカー等からの働きかけによって阻害されていないか。
  A 販売に医師が深くかかわっていることが,メーカー及び小売業者の行動にどのような影響を与えているか。
  B メーカー希望小売価格が競争に与える影響はどのようなものであるか。
3調査方法
調査は,以下の方法により実施した。
(1)アンケート調査
 Bメーカー 発送事業者数:29社回答数24社(うち有効回答数:23社)
 A小売業者 発送事業者数:200社回答数114社(うち有効回答数:99社)
(2)ヒアリング調査
 @メーカー                8社
 A卸売業者                1社
 B小売業者(処方担当医を含む)       16社
 C関係業界団体              2団体
4調査期間
 平成8年11月〜平成9年6月
 
第2 〜 第7 (省略)
 
第8 まとめ及び競争政策上の評価

1 コンタクトレンズ業界の現状
(1)コンタクトレンズ市場の動向
  ア コンタクトレンズの出荷金額の伸びは,順調に推移している。品目別では,ハードレンズがほぼ横ばいであるのに対し,ソフトレンズの伸びは大きい。
  イ 輸入額については,ハードレンズは少ないが,ソフトレンズはここ数年急激に伸びており,国内市場に占める割合は,それぞれ約2.1%,約28.7%となっている。
  ウ 出荷金額及び輸入金額においてソフトレンズの伸びが著しいが,これは,現在外国メーカーの製品のみであるデイスポーザブルレンズが,近年登場して以来、そのシェアを順調に伸ばしていることが影響しているものと思われる。
  エ 日本のコンタクトレンズ装用者人口は,800万人〜1000万人といわれており,そのうちハードレンズ装用者がソフトレンズ装用者よりも多いが,最近では,ソフトレンズの比率も上昇してきているとされる。
(2)小売業者の状況
  ア コンタクトレンズは眼球に直接装用する医療用具であり,従来,眼科医が別法人の販売所を設けて販売する形態が多かった。
  イ しかしながら,市場の大勢は,次第に眼科医から量販店等へと移りつつある。量販店等は特に都市圏に多い。現在,売上高の上位は量販店が占めているものと思われる。
(3)メーカーをめぐる状況
    コンタクトレンズメーカーの数は多く,また,特にソフトレンズについては輸入も多く,外国企業の参入も比較的容易とされている。また,レンズの品質には各社とも大きな差はなくなりつつあるため,レンズの選択における眼科医の影響力は依然として大きいものの,消費者が自らレンズを選択する自由度も増していると考えられる。
(4)取引の状況
  ア コンタクトレンズの取引はメーカーから小売業者ヘの直接販売が多い。取引形態には買取と「委託販売」があり,眼科医や小口の小売業者にあっては買取,量販店等にあっては「委託販売」という形態が採られている。
  イ 卸売価格は,一般に,通常のレンズではメーカー希望小売価格の24〜27%程度とかなり低い水準にあるが,これは,メーカー希望小売価格が医師による処方代相当分を含めて設定されていることにその一因があるといわれている。なお,ディスポ一ザブルレンズについては,1枚当たりの単価が低く設定さ れているため,卸売価格はメーカー希望小売価格の5o%前後と,通常のレンズに比べてその掛け率は高くなっている。
  ウ 小売価格は,量販店等の多い都市圏では値引販売が進んでいるが,地方では依然として低い割引率に止まっている。
  エ 小売業者は広告チラシの配布や独自の保証制度の設定といった販売促進策を採っており,メーカーからの支援もある。
  オ 他方,メーカーは,自社のコンタクトレンズの販売促進のため,小売段階で処方を担当する眼科医に対して自社商品のPR等を盛んに行っている。
(5)コンタクトレンズ販売と眼科医
  ア 眼科医がコンタクトレンズ販売を行っている場合には,一般の小売業者と比べて小売販売価格が高い傾向にあるといわれている。
  イ 小売業者は販売の際に処方する医師を必要としており,それぞれ医師を店内に雇い入れたり,近隣にある眼科開業医と協力関係を結んでコンタクトレンズを販売しているが,医師を店内に雇い入れている場合には,小売業者から医師へと処方代金が支払われており,これが小売業者の販売コスト高要因ともなっている。
2競争政策上の評価
 こうしたコンタクトレンズ業界の現状において,今回の調査に基づき,メーカーと小売業者との取引におけるそれぞれの行動及び小売業者の消費者に対する販売時の行動並びに眼科医の活動等に関して,競争政策の観点から評価をすれば,以下のとおりである。
(1)メーカーによる小売業者に対する関与
 ア 小売販売価格及び広告チラシへの関与
 今回の調査において,小売業者の中には,値引販売を行わないようメーカーから要請されたことがあるとするものや,一定の割引率に止めるよう要請されたことが過去にあったとするものがみられた。
  このような行為は,これによりメーカーの示した価格で販売することについての実効性が確保されている場合には,不公正な取引方法(再販売価格の拘束)に該当し、独占禁止法違反となるものである(「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」〔以下「流通ガイドライン」という。〕第2部第1‐2)。
  なお,こうした要請については,値引販売に反発する眼科医又は地域の眼科医会からメーカーに圧力がかかった結果,メーカーが小売業者に対して要請を行っているとするものも少なからずみられた。メーカーが安売りについての近隣の小売業者からの苦情を取り次いでいる場合であっても,これによりメーカーの示した価格で販売することについての実効性が確保されている場合には,上記例と同様,独占禁止法違反となる(流通ガイドライン第2部第l‐2)。
  また,広告チラシに割引率を載せないようメーカーが要請したり,「委託販売」の状況確認や広告チラシに対する補助の条件遵守の確認の際に,メーカー等の営業員が小売業者の小売販売価格をチェックしているとする小売業者も見受けられた。また,中には,小売業者との間で交わす契約書において,不当に廉価な商品の告知を禁止しているものもみられた。
 販売価格に対する直接の指示ではなくても,メーカーが小売業者に対して,店頭,チラシ等で表示する価格について制限し,又は価格を明示した広告を行うことを禁止することは,これによってコンタクトレンズの価格が維持されるおそれがあり,原則として不公正な取引方法(拘束条件付き取引)に該当し,独占禁止法違反となる(流通ガイドライン第2部第2‐5)。
 イ その他の関与
 今回の調査において,メーカーと小売業者との間の契約書の中で,メーカーが小売業者に対して一般消費者以外ヘの販売を禁止する,処方せん発行医療機関を特定させるといった例も見受けられた。
 メーカーが,例えば安売りを行う小売業者等に対して自社製品が販売されることのないようにするために,一般消費者以外への販売を禁止し,これによってコンタクトレンズの価格が維持されるおそれがある場合には,不公正な取引方法(拘束条件付取引)に該当し,独占禁止法違反となる(流通ガイドライン第2部第24)。
 ウ メーカーによる上記ア及びイの行為に関しては,独占禁止法上問題となるおそれもあるので十分留意する必要がある。上記行為を行っている疑いのあるメーカーに対しては,個別に是正させるほか,流通ガイドラインに示された考え方等を説明するなど個別に指導を行ったところであり,また,関係業界団体に対して,傘下会員に対し、同ガイドラインの内容の周知徹底方要請を行ったところである。
(2)眼科医によるコンタクトレンズ販売ヘの関与
 医療用具であるコンタクトレンズの販売には,眼科医が深くかかわっており,眼科医の別法人である小売業者も数多い。また,こうした小売業者にあっては,メーカー希望小売価格どおりでの販売が望ましいとするものも多い。しかしながら,眼科医が適切な処方を施すことと,コンタクトレンズをメーカー希望小売価格で売るべきかどうかということは異なる問題である。
 眼科医がコンタクトレンズの販売にかかわること自体は,コンタクトレンズの医療用具としての特性から必要だとする意見も多いが,かかわりかたによっては独占禁止法上問題となるおそれもある。
 具体的には,例えば以下のような行為については,独占禁止法違反となる。
 ア 地域眼科医会等における小売販売価格に関する情報交換
   眼科医の別法人である小売業者の中には,地域眼科医会の会合の場でコンタクトレンズ販売における割引率について話し合ったことがあるとするものが見受けられたが,眼科医の団体が,コンタクトレンズの小売販売価格について話し合いを行い,小売販売価格の維持または値引率等を決定する場合には,独占禁止法違反となる(「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」〔以下「団体ガイドライン」という。〕1‐1)。
 また,量販店等の安売りに対して,眼科医の団体等がメーカーに圧力をかけた結果,メーカーが当該量販店等に安売りを止めるよう要請している疑いのある例も見受けられたが,眼科医の団体が,メーカーに対し,安売りを行っている小売業者にこれを止めさせるようにしているような場合には,独占禁止法違反となる(団体ガイドライン1‐2,1‐(2))。
 イ 量販店等の新規出店に対する圧力
 今回の調査において,多くの小売業者が,新規出店を困難にしている要因として処方を担当する眼科医の手配及び地域眼科医の団体との調整を挙げており,その具体的内容として,@量販店等の新規出店に際し,地域眼科医会等からメーカーに対して,当該量販店には商品を卸さないようにとの圧力がかかる,A小売業者が処方担当眼科医を手配する際に,その眼科医に対して地域眼科医会等から眼科医会ヘの入会を認めない等の圧力がかかり,手配が困難になることがあるといった意見がみられた。
 地域眼科医会等によるこのような行為は,以下の場合には,独占禁止法違反となる。
 @ 眼科医の団体が,構成員の競争者である量販店の新規参入を妨げるために,メーカーに対し,当該量販店に対し商品を供給しないよう要請する等によって圧力を加え,これによって取引を拒絶される量販店等が市場に参入することが著しく困難となったり,又は市場から排除される場合には,独占禁止法違反となる(流通ガイドライン第1部第2-4,団体ガイドライン6‐5,「医師会の活動に関する独占禁止法上の指針」〔以下「医師会ガイドライン」という。〕2‐5)。
 A 眼科医の団体に加入しなければ事業活動を行うことが困難な状況において,眼科医の団体が,例えば量販店と協力関係を築き,新規開業をしようとする眼科医に対して,その近隣の既設の眼科医等との間の調整に従わなければ団体への入会を認めないような場合には独占禁止法違反となる(医師会ガイドライン1‐2)。
 ウ 処方せんの発行拒否
 今回の調査において,眼科医が処方に際し小売店を指定したり,中には,自らの販売店又は指定小売業者で購入しない場合には患者に処方せんを発行しないものががあるとの意見もみられた。
 眼科医が共同して又はその団体が,他の小売業者においてコンタクトレンズを購入することを希望する消費者に対しては処方せんの発行を拒否することを決定している場合には,独占禁止法上問題となるおそれがある(団体ガイドライン7-l,8-1)。
 エ 地域眼科医会等による上記ア〜ウの違反行為に該当する疑いのある活動に関して,(社)日本眼科医会に対して,各種独占禁止法ガイドラインに示された考え方等を説明し,各都道府県支部眼科医会及び同会会員に対し,独占禁止法違反となるおそれのある行為を行なわないようその周知徹底方要請を行ったところである。
(3)メーカー希望小売価格の在り方
 ア メーカー希望小売価格に含まれる医師の処方代
 今回の調査において,メーカーから小売業者等ヘの卸売価格は,メーカー希望小売価格の約24%〜約27%程度とかなり低い水準にあるが,これは,逆にみればメーカー希望小売価格が非常に高い水準に設定されていることを示している。
 その理由の一つとして,メーカー希望小売価格の中に医師の処方代相当分が含まれていることがあると考えられ,これは,メーカー希望小売価格でみた内外価格差が大きい要因の一つともなっていると思われる。
 しかしながら,コンタクトレンズの処方については保険の適用もあり,今回の調査においても,小売業者の68%は,眼科医は保険制度から診療報酬を得ているため,眼科医に対して処方代に相当する報酬を支払っていないとしている。他方,メーカー希望小売価格の中に処方代相当分が含まれていることは一般に広く認識されているとは考えられず,これらを勘案すると,消費者は,検眼等にかかる費用を,一方では保険制度から,もう一方ではメーカー希望小売価格に含めて,二重にかつ不透明なまま負担している場合もあると考えられる。
 イ メーカー希望小売価格と実際の小売販売価格との乖離
 今回の調査において,全国的にみると,メーカー希望小売価格どおりでの販売は少ないとする小売業者が59%,メーカー希望小売価格どおりでの販売が多いとする小売業者は41%である。特に,都市圏においてはメーカー希望小売価格と実際の小売販売価格との乖離が大きく(割引率が大きい),地方においては乖離が小さい(割引率が小さい)との傾向がみられ,都市圏においてメーカー希望小売価格の意味が薄れつつある一方,地方においてはメーカー希望小売価格が依然として機能しているという状況がある。
 ウ メーカー希望小売価格をどのように設定するかは,基本的にはメーカーの自由ではあるが,処方代相当分を含めることによりメーカー希望小売価格の水準が高いものとなっていると思われること,また,特に都市圏においてはメーカー希望小売価格はその機能を失いつつあること等を勘案すると,消費者の適正な商品選択に資するとの観点からも,メーカー希望小売価格の在り方について,各メーカーにおいて再検討することが望まれる。
 また,消費者にあっても,現在のコンタクトレンズのメーカー希望小売価格には検眼費用も含まれている場合もあるということを念頭に置いて,適切な商品選択を行うことが望まれる。
(4)薬事法上の承認
コンタクトレンズは医療用具であるため,その製造及び輸入に際しては承認が必要とされている。中でもコールド消毒液の使用に関しては,それ自体の医薬部外品としての承認のほかにさらに組合わせるソフトコンタクトレンズの使用方法に関する一部変更の承認が必要とされている。こうした制度については,その承認に要する期間が長い,費用が高い,細かすぎるといった意見も多く,また内外価格差の一因になっているとの声もみられたが,これらについては,規制緩和推進計画の再改定において一部緩和措置も採られているところであり,今後とも消費者の利益にかなうよう諸制度の運用が適切に行われることが望まれる。

第9今後の対応

 コンタクトレンズの取引において,公正かつ自由な競争を一層促進させていくため,競争政策上の観点からは以上の諸点を挙げることができ,公正取引委員会は,コンタクトレンズ業界の関係者に対し,これらの諸点を踏まえた自主的な取組がなされるよう指摘を行った。
 公正取引委員会としては,今後とも,コンタクトレンズ業界において競争政策上問題となる行為が行われていないかどうか注視していくこととする。